松本先生インタビュー③腹膜透析の現状〜腎移植・腹膜透析が普及していない国、日本〜


松本先生インタビュー③腹膜透析の現状〜腎移植・腹膜透析が普及していない国、日本〜
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松本先生インタビュー③腹膜透析の現状〜腎移植・腹膜透析が普及していない国、日本〜
[松本先生インタビュー③腹膜透析の現状〜腎移植・腹膜透析が普及していない国、日本〜]
- 川原腎・泌尿器科クリニック(鹿児島県姶良市)
腎不全外科科長・腹膜透析センター長
松本 秀一朗 様
聞き手:
- 医療コンサルタント 大西 大輔(MICTコンサルティング株式会社 代表取締役)
- 医療法人明洋会 理事長 柴垣 圭吾 様
松本先生: 主に銀行が悪いと思うのですが、透析ベッドを増やすように融資をし続けると、みな借金まみれになってしまいます。これは病院も同じで、急性期病院は、今まさにチキンレースになっていると思うのです。
東京や大阪はあまりピンとこないと思うのですが、日本のほとんどの地域で、急性期病院はもう供給過剰になっています。病院はちょうど新地区に移転する時期であったりして、みな借金まみれで、もう大変なことになっています。
宇沢先生という経済学者が前から言っていますが、医療はもともと「社会的共通資本」で、公共的な側面が強いものです。そこに資本主義原理や経済原理を入れると、うまくいかなくなります。昔から指摘されていますが、まさに今がそういう状態なのです。
僕は最近冗談で「ビッグモーター病院」と呼んでいますが、病院の医局会は、経営の話ばかりです。患者さんの単価を上げてくれとか、ベッドの埋まり具合がこんなだからとか、在院日数がどうか、とかです。
救急車で来た人は全員入院させて翌日退院させろ、とか、退院延ばせ、などという話も出ます。ロボット手術をたくさんやってみたり、効果の少ない抗がん剤治療を高齢者に勧めてやってみたり、検査など日帰りでもできるような入院を一泊させたりなどもあります。
透析に関して言うと、透析ベッドがどれくらい埋まっていますか、ということは、もう必ず経営指標で出てきます。民間病院だとオーナー一族、ファミリーが利益を独占していて、従業員はみな貧乏な状態のままです。
もう、まさにビッグモーター病院です。
透析医療と精神科医療は非常に似通っていて、これも非常にシンボリックな記事だったので少し紹介します。
精神科病院協会の山崎先生が、東京新聞の記者に煽られて、こんな発言をしています。精神科の拘束の問題についてです。身体拘束の問題で、「医者が決めてやっているのに、部外者がどうこう言うな」という内容です。
治療の一環で拘束したり、鎮静薬投与したりしているのに、知らない人がいろいろ言ってきているため、「どうするの?あなたたちが見られるの?」というような発言をしています。
そういうことを言ってしまうと、専門性の高いために、第三者や外からの人が余計な口を挟めなかったり、変だなと思っていても、専門外医療者が手を出せなかったりします。これは透析医療も少し似通っています。
その結果、医療機関の選択が限定されてしまいます。患者さんから見て、情報遮断が起きやすいのです。
一回透析が始まったら患者さんは情報を得る手段があまりなくて、透析スタッフに気兼ねして物も言えなかったりします。
これはパターナリズムです。透析室の看護師さんが「あんた、こんな水飲んできちゃだめだよ」と、立派な高齢の方々に、まるで子供みたいな態度をすることがあります。
また、透析は公的医療ですが、透析が広がる過程で民間資本が投入されたことがあり、民間経営が多いこともあり、生き残りをかけて利益追求医療になりやすいのです。これは透析も精神医療も似通っている部分です。
よく老人病院や(介護)施設はブラックボックス化していて、中で暴力が振るわれているなど色々な話が出ますが、精神科や透析業界もはっきり言ってそのような感じです。外からの目ではそのような感じで見られていることが多いのではないかと思います。
今日の話の腹膜透析ですが、本来は腎代替療法の三本柱の一つであるにも関わらず、十分使われていない医療の一つということになっています。これはよく出るグラフですが、日本はとにかく血液透析だけたくさん実施していて、腹膜透析も移植も実施していません。
先進国では大体10%から40%ぐらい腹膜透析の普及率があります。ただ、このようなデータを見るとき、注意しなければならないポイントもあります。
先進国ではそのまま透析し続けるということはあまりありません。若い元気な方は数年したら腎移植が受けられます。そのあたりが日本と他の国との本当の大きな違いだと思います。
日本の場合は、血液透析がほとんどで、一度始まったらもうずっと死ぬまで透析で、移植するチャンスはありません。