松本先生インタビュー⑥災害時の腹膜透析〜腹膜透析の新時代〜

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松本先生インタビュー⑥災害時の腹膜透析〜腹膜透析の新時代〜

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松本先生インタビュー⑥災害時の腹膜透析〜腹膜透析の新時代〜

[松本先生インタビュー⑥災害時の腹膜透析〜腹膜透析の新時代〜]

  • 川原腎・泌尿器科クリニック(鹿児島県姶良市)
    腎不全外科科長・腹膜透析センター長
    松本 秀一朗 様

聞き手:

  • 医療コンサルタント 大西 大輔(MICTコンサルティング株式会社 代表取締役)
  • 医療法人明洋会 理事長 柴垣 圭吾 様

松本先生: 僕たちが日常的に活用しているのが、「メディカルケアステーション」というSNSです。

在宅医の先生とも密に連絡を取り合えますし、外来前に患者情報が共有されるので、事前に予習してカルテを作成しておくことができます。

そのため、僕は1日で腹膜透析の患者さんを約3時間で20人ほど診ることができます。スムーズに進む理由は、予習の効果と、処方がある程度決まっていることにあります。

腹膜透析という治療法自体、多くのメリットがあります。

患者さんにとっては、痛みがなく、倦怠感も少ない。血圧の低下もなく、仕事も続けられます。シャントが不要で、在宅で過ごせるため通院の負担も減ります。食事やカリウムの制限も比較的緩やかです。

医療機関側から見ても、新たな設備投資が不要で、維持管理がしやすく、管理料も高く設定されています。しかも診療圏が広く、僕たちの施設でも200キロ離れた地域から患者さんが来ています。

治療選択肢をしっかり提供できるという意味でも意義があります。

地域社会にとっても腹膜透析は有用です。

政府が約20年かけて整備してきた「地域包括ケアシステム」との親和性が高く、人口減少の時代において限られた医療資源を効率的に使う手段になります。

例えば、血液透析で90人の患者を維持しようとすれば、多くのスタッフや設備が必要になりますが、腹膜透析なら医師1人、看護師1人、訪問看護の体制でも十分可能です。

結果として、医療費や社会コストの削減にもつながります。通院の負担もなく、広いエリアをカバーでき、災害時にも柔軟に対応可能です。

個人的には、腹膜透析最大の魅力は「自由」だと思います。

高齢者の多くは、長生きすることよりも、豊かで快適な余生を望んでいます。そうした「自由」をどう守るかが重要であり、まさに「ペイシェント・セントリシティ(患者中心主義)」という21世紀の医療の核となる考えに合致します。

腹膜透析は今、その価値を再評価されている治療法です。

2011年には、血液透析(HD)と腹膜透析(PD)の生存率が同等であるというデータも出ました。患者さんに腹膜透析を提供しない理由はありません。

ちなみに、2011年の東日本大震災の際、多くの血液透析患者さんが避難を余儀なくされ、残念ながら亡くなられた方もいました。しかし、腹膜透析の患者さんは誰も亡くならなかったそうです。

避難所で木の枝にツインバッグを吊るして透析を続けたという話もあります。災害時や戦時下での腹膜透析の有効性については、「Peritoneal Dialysis during Active War」という論文でも触れられています。

透析液が手に入らなくても、ラクテックリンガーにブドウ糖を加えることで代用が可能です。

さらに、社会コストの面でも見逃せません。たとえば、アテネオリンピックの後に経済破綻したギリシャは、腹膜透析の導入を積極的に進めたという論文もあります。コスト面で圧倒的に有利なのです。

一方、血液透析ではバスキュラーアクセス(シャント)が大きなコストを占めています。2001年時点で、透析医療費の1割くらいがアクセス関連ではないかと、大平整爾先生が透析学会誌の論文に書かれていました。

しかし、現在は全く異なると思います。シャントのPTA(経皮的血管形成術)の点数が付いたのは2012年で、その時より少しは安くなりましたが、PTAは1回あたり12万円の点数が付き、シャント増設と同レベルのコストです。

人工血管は16万円、カテーテルは4万円、PTAバルーンは3〜5万円、ガイドワイヤー1万円、ステントグラフト「バイアバーン」は32万円と、医療材料費も非常に高額です。全体で見ると、透析医療費の2~3割を占めているかもしれません。

もう一つの課題は、財源の地域間流出です。地方の高齢者がアクセス治療のために都市部の医療機関を利用すると、高期高齢者広域連合資金が中核都市へ流れていきます。これにより、地方の財政が圧迫され、地域の高齢者が経済的に追い込まれるケースも見られます。

こうした状況を踏まえると、腹膜透析の導入・推進は、個人、医療機関、地域、そして社会全体にとって有益であり、今こそその価値を見直すべき時だと思います。

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