おうちでできる透析医療 〜在宅医療への期待の高まり〜【PDファースト・PDラスト】
おうちでできる透析医療 〜在宅医療への期待の高まり〜【PDファースト・PDラスト】
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おうちでできる透析医療 〜在宅医療への期待の高まり〜【PDファースト・PDラスト】
[腹膜透析という選択 インタビュー]
- 樋口 千恵子 医師(医療法人社団明洋会)
- 森田 智子 看護師(医療法人社団明洋会)
聞き手:
- 大西 大輔 医療コンサルタント(MICTコンサルティング株式会社 代表取締役)
はじめに
わが国では、急速に「超高齢社会」が進んでおり、それに伴う医療費の高騰懸念により、長らく政府は医療費抑制を目的に地域包括ケアという名の「在宅シフト」を進めてきました。
特に都心部ではこれから急激に高齢化が進み、そのため在宅ケアの充実が急務となっています。
さらには、今回の新型コロナの感染拡大の影響から、医療機関での感染リスクを考えて、受診抑制というものが一時期ありました。また最近では、新型コロナの自宅・宿泊療養患者さんがすごく増えていて、その対応に在宅医療への期待がますます高まっています。
このような在宅ニーズが拡大している今、透析医療においておうちでできる透析、いわゆる「腹膜透析」の選択が重要になるのではないかと考えて、今回は「腹膜透析という選択」というテーマで、医療法人明洋会の樋口先生と森田看護師をお招きしてお話をお聞きいたします。
大西: それでは早速質問していきます。「腹膜透析」あるいは血液透析と腹膜透析の「併用療法」を選ぶ患者さんは、どんな特徴があるのでしょうか。
樋口医師: 腹膜透析を選ぶ患者さんは自分がどう生きていきたいか、それをきちんと考える人が選んでいるような気がしますね。誰かに何かをやってもらうようなことを期待しているというよりは、自分は何ができるのか、それをやることによって自分がどうなりそうなのかということを考えて選ぶ人が多いですね。
そのため、透析導入になる時に選ぶ方が多いのですが、「これから透析が必要です」と言われた時に、血液透析と腹膜透析の二つの話をすると、どういうものなのかをしっかりと自分で見たり調べたりしています。どっちが自分にとって良さそうなのかということをよく考えて、仕事のこととか家庭のこととか、自分がこれから透析を行って、どうやって生きていきたいかをよく考えて、その上で選択するという方が多いと思います。
※ 脚注
このように透析導入時に腹膜透析(PD)を選択することを「PDファースト」と呼びます。それに対して「PDラスト」という言葉もあります。これは、高齢となり通院困難となった透析患者様が、人生の最期まで家にいられる療法として腹膜透析を選択されることを指します。
森田看護師: 病院にいた時はある程度医師から勧められて(腹膜透析を)選ぶ人は結構多かったと思います。その中で、選ぶ人は、純粋に病院に行く回数が減る、自分の時間が自由に使えるというところを主にして選んでいる方が多かったイメージはあります。
治療について公平に説明した上でそういう選択をされている方が多かったので、やはり自分の限られた時間をどういう風に使っていきたいのか、というのを自分で考えて選ぶ方が多いのではないでしょうか。
大西: 医療者として先生が提案対応されていると思うのですが、その時に実際に主体性を持っている人はある程度知識が入っていると考えて良いですか?
樋口医師: そうですね、やはり様々な本で調べたり、ネットで見たりして、調べられる範囲で調べている方は結構いますね。ただネットはちょっと偏った情報が多いのであまり賛成はできないんですが。
大西: 樋口先生が「二つ治療方法がありますよ」とお話をしたら、「知っています」となるわけですね?
樋口医師: そうですね、知っている方は多いですね。ただ知らない方ももちろんいます。
私の場合は、なるべく両方の治療を行っている患者さんに会ってもらうようにしています。血液透析を行っている方の現場に連れて行って、5〜10分話をしてもらいます。人によっては15〜30分話している人もいます。それから腹膜透析を行っている方に一緒に会っていただいて、一対一で話をしていただきます。
これから透析を行う患者さんからは、様々な質問が出てきます。食べ物、お風呂、旅行、仕事、様々聞きたいわけですよね。全てが不安なわけですから。
それを生の患者さんから聞けるということはものすごく大きくて、私たちがどんなに話をしても得られない情報がすごく多いみたいで、「実際の患者さんに会ってよく分かりました」という方がすごく多いですね。
大西: 百聞は一見に如かずという事ですよね。
樋口医師: そうですね、生の声はすごいです。それで、大体そこまで行く方は腹膜透析を選ぶ方が多いです。