松本先生インタビュー②人口減少と過剰医療〜血液透析のオーバーサプライ〜

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松本先生インタビュー②人口減少と過剰医療〜血液透析のオーバーサプライ〜

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松本先生インタビュー②人口減少と過剰医療〜血液透析のオーバーサプライ〜

[松本先生インタビュー②人口減少と過剰医療〜血液透析のオーバーサプライ〜]

  • 川原腎・泌尿器科クリニック(鹿児島県姶良市)
    腎不全外科科長・腹膜透析センター長
    松本 秀一朗 様

聞き手:

  • 医療コンサルタント 大西 大輔(MICTコンサルティング株式会社 代表取締役)
  • 医療法人明洋会 理事長 柴垣 圭吾 様

松本先生: そもそも人間は、哺乳類の中で少し長く生き過ぎなのは間違いなくて、同じくらいの大きさの個体だと、大体40年ぐらいの寿命が本来の寿命です。

人類は作物をたくさん作れるようになり、医療技術が進歩したことで、1000年代、10世紀ぐらいから寿命が延びて、人口が増えて、特に明治維新後に爆発的に人口が増えました。

さらに日本の場合は非常に特徴があり、人口が増えただけではなく、若年人口が減りました。高齢者だらけになってしまいました。

そのまま増えていけばバランスが取れるのでしょうが、子供を作らなくなってしまったので、いわゆる人口減少プラス高齢化という現実が近づいています。

人口爆発が起きた戦後、明治維新以降の戦後、昭和の時代の1970年代には「老人医療費無料化政策」がありました。田中角栄が打ち出した有名な政策です。それにより、お年寄りの方はお金がかからないで病院にかかれるようになりました。

それに合わせて病院が一気に増えたのです。それまで70万床くらいだった病床が、130、140、150万床くらいまで増えて、そして1988年くらいから病床規制が始まり、現在に至るわけです。

人口がものすごく減っている中で、病床はその後増えたままなので、明らかに過剰な提供が行われているということになります。総務省や厚労省のデータで明らかなように、病床数が多い地域は決まっていて、僕の住んでいる南九州はとても多い地域となります。

南九州は日本一多い地域の一つで、病床が多いところは当たり前ですが医療費がかかります。では、医療の質が高いかというと全然そのようなことはありません。つまり医療の過剰提供が起きやすいということになります。

当たり前のこととして、医療供給は経済原理で広がりますので、無秩序にどんどん広がります。高齢者であっても抗がん剤治療を行ったり、ロボット手術を行ったり、透析導入をする、ということが当たり前になってしまいます。

人口が増える時期に、透析ベッド数も爆増しました。当初は供給が追いつかなかった透析ベッドはどんどん増えて、病院の透析ベッドと比例して血液透析の患者数もたくさん増えました。

時期的には、1970年代から1990年代にかかる時期に、主に民間施設を中心に血液透析設備への投資が行われ、整備されてきた経緯があります。

一方、腹膜透析は血液透析の設備が充実したこともあり、あまり増えない時期が20年ぐらいありました。

最近の透析医学会のデータを基に透析の新規導入数と患者の死亡数を比べてみると、2000年ぐらいから純増数(導入数-死亡数)がだんだん減ってきているのが分かります。2000年はそれでも年間1万3千人ぐらいの透析患者が増えていますけどね。

この純増数は、近年急激に減り始めていて、今は年間の新規導入数と死亡数の差を取った数が大体4千人ぐらいです。

このままの傾きでいくと2023年に減少に転ずることになります。2023年11月12日に神奈川県が「糖尿病の対策のおかげで透析患者さんが初めて減りました」と発表していましたが、そうではありません。

単純に人口が減って、透析患者の数が減ってきたというだけのことです。つまり、お亡くなりになる方がたくさんいるのです。今年ぐらいから透析患者さんがどんどん減っていきます。

それにも関わらず、血液透析の設備は病院のベッド数と同じで明らかにオーバーサプライの状況です。透析医学会のデータによると、収容可能人数は47万人で、実際の透析患者数は33~4万人です。

計算すると7割ぐらいしか埋まっていない状況です。地方都市の人口減少が先に始まっているため、この現象は地方都市で著明で、僕の住んでいる鹿児島などは火曜日、木曜日、土曜日は透析を行っていないクリニックがたくさんあります。

まもなく東京や大阪など人口の多いところもその後を追うことになるでしょう。

(続く)

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