松本先生インタビュー⑨社会的入院の現状〜10人に1人が入院透析患者に〜


松本先生インタビュー⑨社会的入院の現状〜10人に1人が入院透析患者に〜
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松本先生インタビュー⑨社会的入院の現状〜10人に1人が入院透析患者に〜
[松本先生インタビュー⑨社会的入院の現状〜10人に1人が入院透析患者に〜]
- 川原腎・泌尿器科クリニック(鹿児島県姶良市)
腎不全外科科長・腹膜透析センター長
松本 秀一朗 様
聞き手:
- 医療コンサルタント 大西 大輔(MICTコンサルティング株式会社 代表取締役)
- 医療法人明洋会 理事長 柴垣 圭吾 様
松本先生: 私はよく、「このシャントが詰まったのは、むしろ良かったじゃないですか」と患者さんに伝えています。高齢の患者さんにとって、これは「体の叫び」なんです。「がっかりしなくていいですよ。もう腹膜透析に切り替えましょう。」と勧めています。
実際、アメリカを除く先進国では、高齢者に透析を導入することはほとんどありません。カナダ、オーストラリア、ヨーロッパも同様で、高齢者にはあまり透析を行っていないのです。
2019年のニューヨークタイムズには、「アメリカでは高齢者に透析を多く行っているが、本当はやらないほうがいいのでは」という趣旨の論文が紹介されていました。
以前も話しましたが、シャントの治療は病院にとって利益になります。例えば、ちょっと膨らませるだけで12,000点(12万円)の報酬がつきます。
でも、それほどの価値はないと私は思います。5,000円くらいが妥当ではないかと。ちなみにこの金額は、腹膜透析のカテーテル挿入と同じ点数です。つまり、シャントPTA1回分のコストで、腹膜透析を始められるのです。
シャントが原因で心不全や脳虚血が起こる深刻なケースもあります。私たちが診ている患者さんの中でも、紹介で来られる方によくあります。
例えば、肘のシャントの血流が非常に多くて、寝たきりで認知症の状態だった方がいました。シャントを結紮すると、脳の血流が2倍以上に増え、本当に元気を取り戻したのです。シャントが原因だったのだと、はっきりわかりました。
また別の患者さんでは、シャントのフローボリュームが2.5リットルもあり、脳虚血だけでなく、肝硬変や腹水も併発していました。「もう血液透析はやめましょう」と提案し、シャントを結紮して腹膜透析に切り替えたところ、脳血流が2倍以上に改善し、ぼんやりしていた意識もはっきりして、非常に元気になりました。
こういった事例を目の当たりにすると、透析のあり方を見直す必要があると強く感じます。患者さん自身では、こうしたことに気づけないのです。
日本はもともと「社会的入院」が多い国として知られています。一般病床でも約3分の1、慢性期病床では約半分が社会的入院と言われています。その実態は以前から指摘されており、「社会的入院の研究」という有名な本でも取り上げられています。
透析患者さんについて言うと、ここ10年で入院している透析患者の数が1.5倍に増えました。透析医学会のデータによれば、現在3万人以上が入院中とのことです。つまり、透析患者の約10人に1人が入院していることになります。施設に入所している方を含めれば、さらに多くなるでしょう。
まさに2009年のニューイングランド・ジャーナルが示した通りの状況が、日本で現実になっているのです。
腎代替療法を患者さんに説明している医師や看護師が、この現実を本当に理解しているのか疑問です。たとえば北海道では、雪が降ると「社会的入院」が始まります。
私がいた頃は、12月から5月までの半年間、雪のために入院する人が続出していました。それが選挙公約にまでなっていたのです。「困らないように、入院透析ができるようにします」と。病院は赤字なのに、そんな状況が今も続いていて、結果的に夕張市のように財政破綻してしまうのです。
実際、北海道の地方都市は、全国の赤字自治体ランキングの上位50に多くランクインしています。背景にはこうした構造があります。
たまたま見つけた例ですが、東京のある慢性期病院(300床)では、人工呼吸器使用者が54人、人工透析患者が62人、気管切開170人、腸瘻(ちょうろう)も含めると、ほぼ全員が社会的入院の対象者でした。これを見て私はめまいがしました。けれども、これが現実です。
血液透析を導入した病院が最後まで患者を診ないまま導入だけしてしまう。それは無責任な行為だと思います。シャント治療も安易に行われている印象がありますが、その結果がどうなるのか、理解されているのでしょうか。
高齢者の透析患者さんは社会的入院になりやすいです。なぜかというと、入院しているほうが費用がかからないからです。施設入所だと自己負担が大きいですが、入院すると身体障害者1級の扱いで医療費がほぼ無料になります。必要なのは食費やおむつ代、光熱費程度で、月3~4万円あれば過ごせてしまいます。
そして余った年金は家族が自由に使えます。この仕組み自体、見直すべきではないかと私は思っています。年金は、入院中は国庫に返納する仕組みにしても良いのではないでしょうか。
日本では現在、入院中の高齢透析患者が3万人を超えており、1人あたりの年間医療費は透析、入院、リハビリを含めると1,000万円を超えます。これが3万人分となると、総額3,000億円以上です。PTAなどの処置も加えると、さらに膨らみます。
そして何より問題なのは、患者本人の意思に反して透析が続けられているということです。誰も「死ぬまで透析しながら入院生活を送りたい」なんて思っていないはずです。