食事制限について詳しく解説ー血液透析と腹膜透析・糖尿病患者と透析患者ー
~樋口 千恵子 医師(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~
食事制限について詳しく解説ー血液透析と腹膜透析・糖尿病患者と透析患者ー
~樋口 千恵子 医師(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~
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食事制限について詳しく解説ー血液透析と腹膜透析・糖尿病患者と透析患者ー
~樋口 千恵子 医師(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~
「血液透析」と「腹膜透析」の食事制限について、詳しく教えてください。
以前、腹膜透析に比べて血液透析の患者さんの方が食事制限は厳しいとお話ししましたが、それは血液透析が毎日24時間行っていないため、行っていない時間帯が多いことによるものです。制限なく食べたり飲んだりしてしまうと、水も溜まってしまいますし、毒素も溜まってしまいますので、ある程度の水分やタンパク質、塩分の制限も必要になってきます。
また、カリウム制限があり、血液透析の患者さんは非常に注意していらっしゃいます。カリウムがある一定以上の値を越えてしまうと、「致死的不整脈」という死に至るような非常に危険な不整脈が発生してしまうため、カリウムの上昇は非常に危険です。そこで、血液透析の患者さんにはカリウムを制限した食事をしていただきます。具体的には、カリウムは生ものに入っていますので、生ものをなるべく取らないようにしていただきます。生ものというのは、生の果物、生の野菜、それから生で食べるようなお刺身などです。血液透析の患者さんはそのようなものをあまり摂れないことなります。
一方、「腹膜透析」は、毎日透析を行っていて毒素や水分は取り除いているとはいえ、やはり際限なく摂取できるわけではありません。ある程度の制限は必要になってきます。ただし、血液透析と大きく違うことは、ほとんどの患者さんの場合、カリウム制限がないということです。それは使っている透析液の種類が違うためです。血液透析で使っている透析液にはカリウムが含まれていますが、腹膜透析で使っている透析液にはカリウムが全く含まれていなく、カリウムは透析によって非常に除去されやすくなります。その結果、腹膜透析の患者さんの場合、あまりカリウム制限、生ものの制限ということを厳しく言われないことになります。場合によっては、カリウムが下がり過ぎるときもあるため、生ものをもっと摂ってくださいとお願いする場合もあります。そこが決定的に違う点です。
もし生ものではない魚を摂りたい時は、どのように調理したら良いのでしょうか。電子レンジでチンすれば良いのでしょうか。
カリウムというのは、水に溶ける性質があります。熱すると溶けやすくなるので、多くの場合には、生ものは水にさらしたり、それから湯通しをしてくださいと言っています。ただ熱を加えたからといってカリウムが逃げるわけではないので、お湯につけて、湯通しをしてそのお湯は捨てていただきます。そうするとお湯の中にカリウムが逃げていきますから、カリウムが少なくなった食品になるわけです。そのようなわけで、温めれば良いというものではないため、電子レンジでチンをしてもカリウムの量は全く変わりません。
例えば、味噌汁に野菜を入れて煮出しても、味噌汁の中にはカリウムは残ってしまいます。その場合は一回湯通しをした野菜を使って、お味噌汁を作っていただくということになります。
糖尿病の患者さんの食事と、透析の患者さんの食事は似ているように思えますが、大きく違うところはありますか。
糖尿病の患者さんの場合、腎臓が悪くなければ、やはりカロリー制限になりますので、カロリーを減らす食事をお願いすることになります。しかし、糖尿病腎症という、糖尿病によって腎臓が悪くなってきた患者さんの場合、カロリー制限だけではなく、タンパク質制限食というものが必要になってきます。腎臓を悪くする原因として、タンパク質が壊れて毒素になっていきますので、タンパク質を制限していただきます。タンパク質を制限すると必然的にカロリーも制限されてしまうわけです。タンパク質というのは肉、魚、乳製品、豆製品、など、そのようなものに多く含まれていますので、そのような食品を制限すると同時にカロリーも一緒に制限されてしまうということです。制限し過ぎるとすべての栄養素が足りなくなってきてしまうので、たんぱく質制限をした場合には、ある程度のカロリーをしっかり摂っていただくということになります。
これまで糖尿病の治療でカロリー制限があった方が、糖尿病腎症になると、たんぱく質制限がメインとなり、カロリーはあまり制限をしないという治療に変わっていきます。そこが大きく違いますね。
この食事の変更について、混乱される方が実際たくさんいらっしゃいます。最初は糖尿病だけで、糖尿病の専門医にかかっていた方が糖尿病腎症になって腎機能が悪くなってきたので腎臓内科の方に移ってくださいということで腎臓内科に移られたとき、たんぱく質を制限して、カロリーはある程度取ってください、とお話をすると、患者さんは非常に混乱します。糖尿病の病気の時期によって必要な食事が違ってきますよ、というお話しをして、納得していただくことになります。
ステージごとに食事制限の方法も違うし、食事の献立も違うということですか。
ステージで考えると、「透析に入る前」は腎臓をいかに守るかという治療になりますので、制限するのは「塩分」と「タンパク質」がメインになります。
「透析」に入りますと残念ながら腎臓はもう良くなる見込みはないという治療になります。それまでの腎臓を守る治療から、今度はいかに良い生活を送るかという、生命を維持しながら生活をしていくということが目的の治療になっていきます。たんぱく質制限はあまり行わなくなります。普通の方と同じようにタンパク質を摂っていただき、その代わり増えてきてしまった毒素はしっかり透析で抜きましょうという治療に変わっていきます。ですから、ここでも食事制限の方法がまた変わってきます。
ステージ、ステージによって適切な食事内容というのが変わってくるということになります。
やはり食事は、本当に大事になります。知らないことでリスクがものすごく大きくなると感じます。どのような目的で食事制限をするのかを患者さんがあまりしっかりと理解できていないと、かえって逆のことをしてしまったりします。例えば、体に良かれと思って先ほど紹介した生魚や生野菜を食べてしまうと、大変なことになります。いわゆる体に良いことと腎臓病に良いことというのは全く異なります。巷で言われる体に良いことというのはあくまでも内臓機能に異常がない方に対して言っている話なので、何か病気を持っていらっしゃる方はやはり専門医と相談して、ご自分の体に合った食事をしていただく必要があります。