終末期の透析医療の未来〜腹膜透析と人生会議〜

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終末期の透析医療の未来〜腹膜透析と人生会議〜

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終末期の透析医療の未来〜腹膜透析と人生会議〜

[おうちで透析 インタビュー 終末期の透析医療⑧]

  • 柴垣 圭吾 医師(医療法人社団明洋会 理事長)
  • 樋口 千恵子 医師(医療法人社団明洋会)
  • 森田 智子 看護師(医療法人社団明洋会)

聞き手:

  • 大西 大輔 医療コンサルタント(MICTコンサルティング株式会社 代表取締役)

大西: 対談をして実際に私も感じることは、医療者も歯がゆい面もあるし、家族の立場でいても歯がゆい面もある、しかしながら制度はそんな簡単に変わらない、お金もやっぱり出て行く、ということです。そして、今日改めて感じたことは、医療については知らないことが多すぎるという問題です。

今回の対談を通して、「永遠の入院透析ってどんな感じなんだろうか」「PD(腹膜透析)ってどんな感じなんだろうか」「HD(血液透析)ってどんな感じなんだろうか」ということについて、視聴者の方々が少しでも理解していただければ幸いです。

さらに、もう一つ選択肢があるとするならば、「透析を止める」という選択肢かと思います。これはまた次の機会に伺いたいと思います。

私たちが患者の立場で感じていることは、「選んでいない」ということです。そのために皆さんには今日集まっていただき、お話を聞かせていただいたと思っています。

最後に、柴垣先生から、これから10年以内に透析医療はどんな感じに変わっていくのかということを少しだけお話しいただいて終わろうと思います。

柴垣医師: 先ほどもありましたが、終末期の透析医療におけるご本人、ご家族、それから医療者、介護側がみんなで相談し合って決める、これがいわゆる厚労省の言う「人生会議(ACP:アドバンスケアプランニング)」なんですね。ここである程度モデルプランを提示された上で、ご本人が裁量を持ち望む方向に治療方針、介護方針を決めていくようになるのが理想かと思います。しかし、まだそこまで行ってはいなく、新しいことをやろうとすると、かなりハードルが高いというところはあると思います。

それから日本の場合には、色々なことをやるにしても制度上、制度の変更の問題があります。例えば、先ほど樋口先生が仰っていたような、「介護をする方が腹膜透析の治療のお手伝いをする」という事は、はっきり言うと厚労省が透析液の交換を医療行為としてとらえている限り、なかなか変わりません。ところが「(透析液の交換は)医療行為ではない」と言った瞬間にガラッと変わると思います。

こういった政治的決断をするということは、日本人全体、非常に不得意です。これは医療だけではなくて、すべての政策において言えることだと思います。大統領制ではないため、日本人というのは大きな政治決断をするのが難しい。他国には、大統領が「これをやる!」と言えば変わるような国もありますが、日本のような政治制度の中ではなかなかそういう大きな政治決断をすることができません。

ただし、一つ良い意味か悪い意味か分かりませんが、「期待」があります。それは、この国の医療財源が今後ものすごい勢いで減っていくという事実です。医療財政が逼迫していることが必定なので、そういったことに対して、政府は何らかの対策を講じる必要性が出てきます。

例えば腹膜透析も医療行為だとしている限り、はっきり言ってコストは落ちないわけです。でも、何とかしてコストを落としていかないといけないというのは、もうこの国では必定ですので、国は何らかの政治的決断をせざるを得ないということがもう明らかです。これは時間の問題だろうと私は思っています。何らかの政治決断をしないと財政が破綻するだけですから。

その意味では政治がどこかで決断をせざるを得ないと思いますし、我々医療者もその政治決断に備えていないと対応ができないと思っています。もう恐ろしい勢いで税金を払う人が少なくなる、恐ろしい勢いで税収が減っていくわけです。ですから、何らかの規制緩和なりをして、この財政の継続性を維持しないといけないということは、もう誰が見ても明らかです。

そのようにどこかで政治決断がなされるんじゃないかと、私は比較的楽観的に期待しています。今のままでは何も変わらないです。誰も何の決断もできないですから。ただ私は財政が政治決断を促すと思っています。

大西: 最後に、今回の新型コロナで分かったことですが、今日本という国が、例えば感染対策にしてもそうですけども、何かしら外圧がなければ動かない国であったとしたら、最も大きな外圧というのは、これまで積み重ねてきた借金ですし、急激に膨らむ社会保障費でしょう。何といっても少子高齢化という問題がこれから国を変えていくのではないかというお話でした。

ただ現場の家族の立場、そして医療者の立場からすると、政治的決断と共に様々な理解というか、ディスクロージャーというか、インフォームドコンセントというか、そういったものをどんどん進めていき、もっと医療を分かりやすく身近であるものにしていくことが重要であることに気づかされました。今日はありがとうございました。

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