おうちで透析(腹膜透析)ー正しい後悔のない人生を過ごす為の選択をー
~市川 匠 臨床工学部門長(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~

透析に通うのがツライと思ったら
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おうちで透析(腹膜透析)ー正しい後悔のない人生を過ごす為の選択をー
~市川 匠 臨床工学部門長(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~

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おうちで透析(腹膜透析)ー正しい後悔のない人生を過ごす為の選択をー
~市川 匠 臨床工学部門長(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~

一番大事なことは、その時その時の意思決定をするときに、患者さんにどれくらい寄り添えるかですね。

父と息子は男同士ですし素直じゃないんです。大変な状況に置かれているときでさえ、病院に見舞いに行くとお互い強がって意地を張り合ってしまう。本心で「迷惑かけるからいいよ」とか父がポロッと言った瞬間に、「どうしたら迷惑じゃないと感じてくれるの?」と本当はそこに踏み込むべきだったのだろうと思います。そういうきっかけがあるにも関わらず、切羽詰まった時ほど、逆に言えなくなってしまうのかもしれません。

今の透析患者さんが、いつか足腰が弱くなって医院に通えなくなる時、あるいは食事が取れなくなって、だんだん弱っていく時というのは、透析患者に限らず必ず誰にでも平等に訪れる瞬間なわけです。その時に慌てて家族と相談するよりも、どこかで一度腹を割って話をしておくというタイミングが人生においては必要だと思います。

父のことがある少し前に、私はエンディングノートを既に書いたんです。自分の時はこうして欲しい、と。偽らざる本心を全部書きました。そこには、「寂しいからできれば家に帰りたい」とか、そういうことを書くわけです。そういうやりとりが重要なのです。

これは私たち夫婦の価値観なのですが、私にとっては、妻は唯一血の繋がっていない家族です。だからこそ私は妻には何でも言えます。子供に言えない、親にも言えないことを妻には言えると思っています。妻には、時々、「真面目な話をするけど」と前置きして、「もし俺が死んだらこうして欲しい」みたいな話をします。時には冗談のように話したり、時には真面目に話します。こういう積み重ねがあった時に、「彼は以前こう言っていたな」「倒れる前にこう言っていたな」ということを家族が思い出してくれると思います。改まったしっかりした話ではなくても、そういうことがあることで、「あの人なら多分こうして欲しいだろう」と思うきっかけになるのだと思います。

日本人はなかなかそういう会話に踏み込まない傾向があるような気がします。外国の方がどこまで踏み込むのかは分からないですが、外国の方の場合は、宗教観があるでしょうから、日本人よりもう少し宗教に寄って、対応している部分があるのかもしれません。我々日本人は無宗教であるがゆえに、残された人たちの気持ちと自分の気持ちに折り合いをつけるタイミングはとても重要になると思います。

「腎代替療法」においては、特にそれがシビアな形で突きつけられてしまいます。「今医院に通えているから大丈夫。だから考えたことはない。」とみなさんおっしゃいます。でも、60代半ばぐらいの元気なお年寄りでも、10年という尺度で見たら弱る可能性は十分あります。そうなった時のことを想定して、そうなった場合血液透析を続けるのか、どこかのタイミングで腹膜透析に切り替えるのか、そういう話をしておく必要があります。腹膜透析に切り替えるのなら、誰が管理できるのか、関わってくれる人はいるのか、行政に頼ってみよう、という話し合いはドタバタの中ではできないので、早め早めにそういう話をしておくことがとても大切になります。私が自分の父親を数年前に看取って、今になって一番強く思ってることですね。

私たちも「おうちで透析」の中で、そういうことを発信し続けて、患者さん及びその家族が情報を正しく選べることで後悔のない人生を過ごせるように支援していきたいですね。

私も活動の中で、何か誰かのためになるということを行っていきたいと思っています。「こう選んだらいい」という選択肢を考え、「これを選んだことによって満足できた」ということを突き詰めていきたいと思っています。これは、患者さんに対してだけではなく、臨床工学技士として周りにそのような啓蒙活動をする中でも、大事にしていきたいことだと思っています。

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