透析治療における意思決定・家族との関わり―腹膜透析(PD)と血液透析(HD)―
~市川 匠 臨床工学部門長(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~

透析に通うのがツライと思ったら
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透析治療における意思決定・家族との関わり―腹膜透析(PD)と血液透析(HD)―
~市川 匠 臨床工学部門長(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~

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透析治療における意思決定・家族との関わり―腹膜透析(PD)と血液透析(HD)―
~市川 匠 臨床工学部門長(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~

患者も家族も限られた情報の中で、意思決定をしなければならない時に、情報開示とか検討する材料が欲しいと思います。

私の場合、医療従事者で、しかも専門家でありながら、自分の父親に対して、彼がしっかり理解できるほどに説明できたかは自信がなく、心残りがあります。

例えば、父がHHD(在宅血液透析)をやりたい、もしくはPD(腹膜透析)をやりたい、と言った時に、家庭で本人ができれば良いのですが、父の場合は恐らくできなかったと思われますので、母かもしくは私か、私の妻がやることになったと思います。医療従事者になって思ったことですが、「やるよ」って言うのはすごく簡単なのですが、実際にやるとなると医療従事者でも大変なのです。そのあたりのことをしっかり話し合えたかというと自信がありません。

多くの一般の患者さんが在宅で医療を受ける時に、「奥さんがやってくれるから」とか、「自宅に帰りたいから」という思いを尊重して帰してあげるのは良いことなのですが、その先にある、周りにかかる負担であるとか、やってくれている予定の人がもしできなくなった時のことであるとか、本当は考えなければならないことがすごくたくさんあります。それが結果として、一時は良くても、状況が変わった時に不幸な結果になってしまうのであれば、そのバックアップも考えておかなければいけないことになります。

そういう意味で考えると、家族もそうですし、社会資源としての「ケアマネージャー」であるとか、「訪問看護師」の仕組みはすごく重要で、今の介護や在宅診療の仕組みだけだとまだ少し足りないように感じます。それらのことに関してはこれから改善されていくと思うのですが、誰もが情報をしっかり得られる環境を作ることはとても大事なことです。「おうちで透析」の活動もそういうところに大きな意義があるのだと思っています。

このような動画を通して情報の通訳をしてあげないと、患者さんは情報不足すぎる。情報不足の時に、「臨床工学技士ってどんな仕事なのかな」という話だったり、その中で「市川さんが透析にどう関わっていくのか」、「自分の家族が実際に透析が必要になった時に、何が心残りで何があったのだろう」という話を聞いて、情報を得て、みんなで話し合うことが大切だと思います。

患者として家に帰りたいという思いは、本当の気持ちだと思います。でも、どこかに「周囲に迷惑をかけたくない」という思いもあり、父の頭の中ではいろいろな葛藤があったと思います。だから、「もう何十年も生きるか死ぬかみたいな生活をしてきたのだから、ここまで来られたのであれば、もう別に俺がいなくなってしまったほうがみんな楽だろう」などと考えてしまうのだと思います。今話していても悲しいことだと思うのですが、それも偽らざる気持ちだったのだろうなと想像します。

それを「いや、大変だけど、やっぱり家にいて欲しい」と私が言えていれば、「そうか」となったのかもしれないし、「そこまで考えてくれるのなら、俺はもうそれで充分だよ」という結果だったのかもしれません。そこまでの人の心の中は、全部は分からないですからね。

どこまで行っても結論が出なかったり、相手のことをよく分かっているからこそいろいろ考え過ぎて言葉にできなかったりしてしまうのですが、その点に関しては、できる限り突き詰めて考える機会というのを多く作る必要性があったのだと思います。そういう意味で、「ACP※」はすごく重要な考え方だと思います。どうしたら、「家族に負担をかけたと思わないで自宅に帰れるのか」ということを、元気なうちにいろいろと考えておくとか、家族と意見をすり合わせておくということは、すごく大事なことだと思います。

※ ACP:Advance Care Planning. アドバンス・ケア・プランニング。将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、 本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスのこと。(日本医師会のホームページより)

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