透析医療における選択肢とは?―臨床工学士から見た腹膜透析―
~市川 匠 臨床工学部門長(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~

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透析医療における選択肢とは?―臨床工学士から見た腹膜透析―
~市川 匠 臨床工学部門長(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~

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透析医療における選択肢とは?―臨床工学士から見た腹膜透析―
~市川 匠 臨床工学部門長(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~

市川さんは、お父様が透析治療をされた経験もあるそうで、そのような経験を踏まえて、「透析医療」に対する想いや考え方についてお聞かせください。

現状、血液透析は「包括治療」で、医療収入として病院に入ってくるお金は一定額となっています(それ以外に出来高で入るお金もありますが)。病院として、お金をかけてもかけなくても同じ収入となると、そのようには考えたくはありませんが、やはり施設間で差が出てくるのではないかと思います。

我々は医療(機器)の専門家ですので、様々な工学的な知識を取り入れたり、マネジメントに深く関わったりして、病院のコストを下げる方法を色々と考えたりすることが可能です。そのように、同じ環境で治療するにしても、より良い医療を行うために力を発揮しがいのある職域かなと思っています。

患者様とは、基本的にお亡くなりになるまでのお付き合いなので、極端な話、患者様とは実の親よりも長く接することになります。ある程度の距離感を保たなければいけないと思いつつも、普段接している時間が長いので、思い入れもあります。「良くしてあげたい」という人としての根源的な気持ちが我々医療者の中にはものすごくあると思います。そのようなこともあり、より良い治療、一歩でも高いレベルの治療をしよう、という努力のしがいがある仕事だと思います。

透析医療は、何十年もの蓄積によって行われ、その先に訪れる不幸な結果を回避できるかもしれない治療です。今すぐ何かを治すという治療ではありませんが、目に見えないけれど頑張っていればちょっとずつ様々なことが改善されます。例えば、長く血液透析を行っていると、骨がもろくなるなど色々な問題が出てくるわけですが、それらを少しでも避けられることができたりします。結果として、自分たちの努力がしっかりと実を結んでいきます。その地道な積み重ねの治療なのです。

一方で、自分自身が患者家族として見た時に、「あそこの病院大丈夫なのかな」「この病院は大丈夫なのかな」ということをはっきり意識するようになりました。医療従事者としては、よその病院はよその病院と思っていて、その施設ごとの考え方があると思っていた節がありました。しかしながら、患者様や家族にとっては、その施設の運営の状況は知ったことではなく、良い治療をしてくれるかどうかだけが重要となります。そのようなこともあり、やはり病院側としてはできる限り良い治療を提供する必要があると思います。

経営的に色々な理由があるにしても、私は患者様に選択肢を多く提示してあげたいと思っています。選択肢を狭めるとコストは下がります。しかし、私たちはできる限り患者様を集めて経営状態を良くしておき、患者様に提示する選択肢を多くしてあげたいと思っています。それがより良い治療の一つだと考えています。

当然これは患者様の価値観であるとか、体の病状によって異なり、この治療が良い場合もあれば、また別の治療が良い場合もあります。選択肢を多く提示するということは、「じゃあまずAでやってみよう」「Bでやってみよう」「それでもだめだったらCをやってみよう」ということを行っていくということです。もし「Aという治療をしました」「Bという治療をしました」「もう打つ手はないです」という病院だとしたら、私はその病院を選びたくないと思います。この「色々なことを提案できるかどうか」ということは透析医療においていちばん重要なポイントだと思っています。また、残念ながら、解決できないことがあったり、対応できないことがあったりしたとき、どこまで患者様に寄り添ってあげられるか、ということもとても重要になってくると思います。

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