【前編】血液透析と腹膜透析との違いを世界一分かりやすく解説してみた!
~樋口 千恵子 医師(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~
【前編】血液透析と腹膜透析との違いを世界一分かりやすく解説してみた!
~樋口 千恵子 医師(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~
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【前編】血液透析と腹膜透析との違いを世界一分かりやすく解説してみた!
~樋口 千恵子 医師(医療法人社団明洋会 柴垣医院)インタビュー~
「血液透析」と「腹膜透析」の違いはどのようなところにありますか。
「血液透析」と「腹膜透析」は、腎臓が悪くることで、体内に溜まってしまった尿毒素や水分を取り除き、ミネラルの補正、酸塩基平衡の崩れを補正するということについては同じ機能を持っています。しかしながら、治療の方法が全く違います。
「血液透析」は主に日本では病院・クリニック、いわゆる医療施設で行うことが多い治療法です。これに対して「腹膜透析」とは元々自宅で行っていただくというコンセプトのもとに作られていますので、自宅で患者さん、もしくは家族に行っていただく治療法です。例えば、お仕事をされている場合は、会社で行っている場合もあるわけです。最近は高齢者施設で、施設の看護師さんが行うこともあります。自宅で自分でできない場合は、訪問看護師に自宅に来てもらって行っているということもあります。血液透析と腹膜透析の違いは、実施する「場所」が違うということ、透析を「誰がやっているか」が違うということになります。血液透析は病院やクリニックのスタッフ、看護師や技師が行ってくれますが、腹膜透析は患者さん、家族、それから訪問看護師に来てもらう、というように治療を「実施する人」も違うということになります。
医療機関への「通院回数」も大きく違うところです。「血液透析」は週3回行うことが多く、その場合には月13回、透析のクリニックに通うことになります。一方、「腹膜透析」は特に問題なくできていれば、患者もしくは家族が自宅で行い、うまくできているかどうかというチェックを受けに通院するのは月に1回~2回という形になります。
「社会復帰」や「QOL(生活の質)」にも違いがあります。「血液透析」は医療機関に行って透析を受けるため、その医療機関の透析の時間に合わせて自分が通院する必要があり、透析に合わせた生活をしなければならないので、社会復帰もしづらいですし、QOLもあまりよろしくないと言われています。これに対して腹膜透析は自宅で自分の生活のリズムに合わせて行っていきますので、社会復帰もしやすいですし、生活の質も血液透析に比べると良いと言われています。
「循環系」への負担も異なります。血液透析は血管に針を刺して血管の中からポンプを使って血液を体の外に出していきます。そして体の外で血液をきれいにする治療法です。ですので、血液が外に出る体外循環ということが必ず起こります。そうすると血液が出血しているのと同じような状況になりますので、血圧が下がるとか不整脈が出やすいなど、そういった循環系への負荷というのがあります。もちろん綺麗になった血液は徐々に体に返していくので、最終的に出血するわけではないのですが、約200mlの血液が血液透析を行っている間は身体の外に出ているということで、そういう負担が起こることになります。腹膜透析は、お腹の中に透析液を入れて間接的に血液をきれいにしていきますので、血液が体の外に出ることはありませんから、循環系への負担はほとんどないと言われています。ですから腹膜透析を行ったから血圧が下がったとか、不整脈が出たということはほとんどないと考えて頂いて良いと思います。
どちらの治療も「合併症」などは起こりえます。血液透析では、「不均衡症候群」と呼ばれるものがあります。血液透析というのは非常に効率が良いため、例えば4時間のうちに身体にたまった水、それから尿毒素をかなりの勢いできれいにしていきます。すごい勢いできれいにしていくので、体の中ではものすごい劇的な変化が起こるわけです。そのために体としては血液がきれいにはなっているのですが、その変化があまりに強いので、頭痛が起こるとか吐き気が起こるということがあります。それを「不均衡症候群」と言います。
また、「血液透析」は血液を体の外に出して治療するわけですが、血液というのは体の外に出ると固まる性質を持っています。血液が外に出ていってしまうと困るので、空気に触れると血液が固まる性質を持っているのです。そうすると血液透析はできなくなってしまうので、血液が固まる性質を抑えるお薬を使いながら行います。透析が終わってもそのお薬の効果が少し残っていますので、少し出血しやすいということが起こります。
さらに、血液を体の外に出すために針を刺す際、細い血管に針を刺してたくさんの血液を取ることはできませんから、「シャント」と呼ばれる血管を太くする手術が必要になります。シャントとは、動脈と静脈をつなぐ手術ですが、そのシャントがトラブルを起こすこともあります。シャントが詰まってしまうとか、感染を起こすとか、血管が細くなってしまうという可能性があるのです。そういうような不都合が起こる場合があります。
一方、「腹膜透析」は、お腹の中に透析液という薬を入れます。大体、日本人ですと1.5L~2L、体の大きな人ですと2.5L入れます。海外では3L入れたりしますが、日本では3L入れる人は見たことはありません。このようにかなりの量の透析液を入れますので、ちょっとお腹が張った感じがします。患者さんが最初に透析液を見ると「こんなにいっぱい入れるんですか」とびっくりされるのですが、人間のお腹は非常にフレキシブルで、2Lぐらい入れてもあまり何か感じる方は少ないですが、少しお腹が張ったかなという感じは出ます。
それからお腹の中に液を入れたり出したりするということで、カテーテル手術をしてお腹に入れてずっと置いておくわけですが、そのカテーテルに感染が起こったりすることがあります。そして「腹膜炎」や「カテーテル感染」を起こすことがあります。
また、自分の腹膜をずっと使って治療しているわけなので、腹膜を取り替えることはできませんから、腹膜が何年も経ってくると傷んできてしまって固くなってきてしまう場合があります。そして腹膜は腸管の表面を覆っていますので、一緒に腸もくっついてしまうことで、EPS(被嚢性腹膜硬化症)と呼ばれる状態が起こることがあります。EPSになると、腹膜と腸が一体となったものがお互いにくっつく、すなわち腸同士がくっついてしまいますので、非常に重篤になります。現在、腹膜透析を行っている患者さんはこのEPSになる前には治療を中止しなくてはいけないと言われています。