腹膜透析が日本で普及しない理由とは〜QOLを良くする鍵はPD?〜

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腹膜透析が日本で普及しない理由とは〜QOLを良くする鍵はPD?〜

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腹膜透析が日本で普及しない理由とは〜QOLを良くする鍵はPD?〜

[腹膜透析という選択 インタビュー]

  • 樋口 千恵子 医師(医療法人社団明洋会)
  • 森田 智子 看護師(医療法人社団明洋会)

聞き手:

  • 大西 大輔 医療コンサルタント(MICTコンサルティング株式会社 代表取締役)

大西: ちょっと話を戻します。我が国の透析治療のうち腹膜透析はわずか3%で、97%は血液透析です、という話がありました。腹膜透析が進まない理由やハードルは何かあるかなという事を、ちょっと森田さんに聞きます。

森田看護師: やはり血液透析の医療が充実し過ぎているのかもしれません。お金もかからないし、送迎もしてくれるし、看護婦さんもいて、先生もいて、正直話し相手みたいになってくれている部分もあって、やはり血液透析に行っていれば安心、という所もあるのかなと思います。

大西: 腹膜透析は自宅でやるのに対して、病院はホテルですよね。最高級な給仕がいて、送迎までしてくれて、若い看護師さんとお話をして、「最近どう?」というお話をしてくれるじゃないですか。そうすると、家にいて家族ともし話をしていない状況でしたら少し楽しいですよね。

森田看護師: そうなんですよね。そういう意味では血液透析がすごく良い医療というのは良くも悪くも手軽になり過ぎたと感じます。

大西: ちょっと過剰サービスではありますね。

森田看護師: そういう感じがあるので、腹膜透析は指導が必要で、急いで患者さんに色々な事を教え込まなくてはいけないというシステムもハードルになっていると思います。腹膜透析はおうちに帰ったら自分でやらなければいけないけど、血液透析は病院に通いながら少しずつ覚えていけば良いとなると、やっぱり血液透析のほうが楽に感じます。

また医療側の視点で見ても、血液透析の方が入院期間が短くなり、教育時間も短くなり、医療スタッフがいなくても患者さんをどんどん増やせますが、腹膜透析はマンパワーが必要で、それだけ医療者の時間と労力が必要になってきます。血液透析が手っ取り早い治療になっているというところが、腹膜透析が普及しなかった原因かと思います。

大西: 血液透析はすごくシステマティックですね。高度急成長していた日本において、病院はどんどん増えていって、今はクリニックが10万軒、病院が約9千軒あると言われています。その中で何が進んでいったかというと、どうやって効率良くオートメーション的に医療を提供するか、という事になりました。そこには、患者さんが選ぶとか、患者さんが自分で治療をするとか、こういう所が少し疎かだったのかなというのは過去を振り返ると感じますね。樋口先生、それ以外に何かハードルに感じている事はありますか?腹膜透析はなぜ日本で普及しないのかなと。

樋口医師: 進まない理由は、やはり透析を導入する医師側が腹膜透析を知らない、もしくはできない医者がすごく多い、ということかと思います。そのため、ごく一部の医者は腹膜透析の話を患者さんにするけれども、大多数の医者は腹膜透析の「ふ」の字も言わないという状況です。言ったとしても「こういうのもありますよ…」という感じで、それ以上の細かい話はしない。「腹膜透析というのもあるけれども、まぁみんな血液透析を選んでいますからね、血液透析で良いんじゃないでしょうか」のような話をして、両方の透析の説明をしたという事にしてしまっている状況です。日本ではそのような流れで血液透析に誘導していく医者がすごく多いです。

なぜ血液透析はそんなに誘導されるかというと、遡っていけば慢性腎不全の患者さんをいかにして救命するかという事で血液透析が発達してきて、日本は非常に良い血液透析の仕組みを作っていったわけです。それで各基幹病院のサテライトに紐付いている透析クリニックを作りました。作るとそのクリニックが経営上成り立っていくようにしなければならず、血液透析患者さんもある程度人数が必要になってきました。そのように血液透析は基幹病院である大学病院や大病院の色々な経済的な理由とかしがらみとかに繋がっていて、血液透析自身はすごく良い治療ではあるんですけど、どんどん発展してきました。

腹膜透析を患者さんに教えるにはすごい手間が掛かりますから、すごく大変なんです。その分が保険でカバーされるかというとほとんどカバーされません。ボランティアみたいな形で患者さんも教育していかなければならないという事で、時間がかかる、労力も掛かる、でもその分の収入は病院には入ってこないとなると、やる人は少ないですよね。

そのように様々な要因が重なって、日本では血液透析が主流になりました。これまでの医療の世界では、生命維持とか死亡率をいかに下げるかが大切で、どういう治療がQOL(Quality of Life、生活の質)を良くするかという観念は今まであまりありませんでした。

最近それが変わってきています。そのため、QOLを良くするためにはPD(腹膜透析)という話が出てきています。ただ、今まではいかにして患者さんを死なせないか、生存率を良くするか、5年生存率がいくつか、そういう数字を目標に掲げていたので、血液透析がどんどんどんどん発展していったというのも一部あるかなと私は思っています。

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