腹膜透析を断念せざるを得なかった老夫婦の事例

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腹膜透析を断念せざるを得なかった老夫婦の事例

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腹膜透析を断念せざるを得なかった老夫婦の事例

[腹膜透析という選択 インタビュー]

  • 樋口 千恵子 医師(医療法人社団明洋会)
  • 森田 智子 看護師(医療法人社団明洋会)

聞き手:

  • 大西 大輔 医療コンサルタント(MICTコンサルティング株式会社 代表取締役)

大西: 日本の診療報酬制度というものは、何かやった行為に対して出来高で点数を付けてきました。もしこれが全部自費だったら全然違います。台湾とか香港とかオーストラリアとかアメリカとか、自費率が高い国であればある程、実は腹膜透析が進んでいます。もし仮に価格が同じであれば、QOL(Quality Of Life、生活の質)の高い方を選びますよね。本当に点数設計のし直しが必要になるかも知れないと思います。

もう一つ腹膜透析を選べない原因として、家族の負担というのがあるのかなと感じます。家族の協力と言えば良いのかな。これは森田さんに聞きたいのですが、家族の協力はどうなのでしょうか?例えば腹膜透析されている方が自分でなかなかできなく、家族がやらなければならないとすると、どれくらい負担があるのでしょうか?具体的にイメージしたいです。

森田看護師: 例えば、お医者さんから腹膜透析を勧められた老夫婦で、旦那様が患者さんで奥様が介助者になった場合の例があります。旦那様は家事は何もせず、ご飯も作れません、食事も上げ膳据え膳で、洋服も全部奥様が準備してあげないといけない、お風呂ぐらいは自分で入れます、というような状況でした。奥様にとって、そこに、プラスアルファとして「私に腹膜透析をやれって言うんですか?」となった時は、なかなか難しいですよね。

「私にこれ以上の負担が増えて、私に何かあった時には誰が何をしてくれるんですか?」と奥様に言われた時、その責任は私たちには負えないです。そうなった時に旦那さんから「これ以上奥さんには迷惑掛けたくないんだ、奥さんが自分にとってはすごく大事なんだ」と言われて、「先生は腹膜透析を勧めたけどやっぱり僕は血液透析にするよ」って言った患者さんがいらっしゃいました。

やはり高齢になればなるほど男性も自立度が低くなって、パートナーへの生活の依存度もすごく高くなっています。その上で医療依存度も高くなってしまうと、家族のバランスが崩れてしまいます。支える人が多ければ、その人の負担を誰かが肩代わりしてくれるのでしょうけど、今の核家族の社会ではなかなかそれが難しいという現実があります。

私達は医療だけではなく、その人の生活を守らなければいけない、その人たちの生活を崩してはいけないと考えると、その人たちが腹膜透析をできる覚悟があるのか、というところで断念せざるを得ないところも出てくると思います。

患者さんが「やります」と言ってくださればいくらでもお手伝いはしたいと思うのですが、やりたいけどできないとなった時に、私達から「やれますよ」とは言えない部分があります。本当に家族のバランスを見ながら進める必要があります。

特に大学病院から在宅医療の現場に来て、患者さんの生活に比重を置いて見ることが多くなった時に、ますます医療だけではないと感じているので、難しいところですね。

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