腹膜透析を選択するということ〜自身の「選択」が求められる時代〜

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腹膜透析を選択するということ〜自身の「選択」が求められる時代〜

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腹膜透析を選択するということ〜自身の「選択」が求められる時代〜

[腹膜透析という選択 インタビュー]

  • 樋口 千恵子 医師(医療法人社団明洋会)
  • 森田 智子 看護師(医療法人社団明洋会)

聞き手:

  • 大西 大輔 医療コンサルタント(MICTコンサルティング株式会社 代表取締役)

大西: 最後に二人に聞きたいのですが、「腹膜透析という選択」というテーマで、最後のメッセージとか、選択をするという事はどういう事なのかという事をまとめていただきたいと思います。

樋口医師: 腹膜透析は自宅で行う治療ですから患者さんもしくはご家族にある程度の負担はかかります。ですから、それを乗り越えていけるだけの意思と、それからある程度の知識と、お互いに協力していくような環境と、そういうものが揃っていないと難しいです。

それは家族だけで完結しなくてはならないわけではなく、訪問看護師さんと一緒にやっていければいいと思います。ただやはり訪問看護師さんが全部やるというのは難しいので、患者さんがある程度やる必要があります。だから治療に対して前向きである、患者及び周りの人が前向きである、という事が一番大事だと思いますね。

大西: これはバーターだと思うんです。QOL(Quality Of Life)を高めたいから腹膜透析を選ぶ、その代わり、自己の負担は覚悟して欲しい、ということです。ただ旅行に行けたり、仕事を続けられたり、いろいろな良い事がたくさんある時に、一番感じるのは、身体の調子の問題です。血液透析とちょっと違うと思います。腹膜透析の方がなだらかな調子があるのに対し、血液透析はアップダウンが結構激しいと思います。そういう生活の質を手に入れたければ、備えの意思と知識と環境整備、この辺が大事な気がします。

樋口医師: 何も負担が無く全部がハッピーというのは、ちょっと今は得られないですね。

大西: 2000年以前の介護は、「措置」と呼ばれていました。要は福祉の世界です。介護保険はまだありませんでした。その時はお恵みとか言っていた時代です。そういう感じで、医療は与えられるもの、自分から獲得するものではない、という考えでした。でもこの腹膜透析はまさに自分で進んで自分で切り開くものなんですね。

森田さん、今日は腹膜透析という選択というテーマで話をしてきましたが、この選択というテーマについて思う事を最後まとめてお話ください。

森田看護師: 人生での選択の連続が今の結果になっていると思います。だから今までの生活を選択してきて残念ながら腎臓が悪くなってきた方もいるし、そういう生活をしていなくても、ある日突然なる方もいらっしゃいます。それぞれぶち当たった壁というのは人によって違うと思います。

医療者は当然支えていかなければいけないのですが、最終的にはその人の選択というものに頼らざるを得ません。その人の人生なので。そういう意味で一人一人が病気になっていく、老いていく、亡くなっていく、という事に、一人一人が選択をして自分自身でマネジメントしていかないといけない世の中になってきていると思います。それをみんなが気付いていかなければいけないと思います。

誰かを頼りにする、国が何かをしてくれる、誰かが何かをしてくれる、家族が何かをしてくれる、ではなくて、自分がまずどうしたいか、どうするべきか、ということを勉強していかなければこの先の日本の高齢化には対応できないのではないかと思います。これらは自分自身も老いていく上で考えていくテーマではないかと感じます。

自己負担が無いから湯水のように好きな医療サービスを得られるという時代ではもうなくなっていくのではないかと思います。

大西: 高度経済成長の頃は十分税収があって、医療費というのは当然高齢者が少ないから回ったわけです。今は医療費も年金も限界に来ていて、病院は減らさなければいけないという時代に、これまでのやり方が通じるはずがないんですね。

よく話に上がるのが年金ですが、年金は70歳から75歳くらいで亡くなる設計をしていたんですよね。蓋を開けたら平均年齢が89歳。10年くらい足りないんです。だから再設計をしている。

医療の設計上、今回のコロナは大アクシデントです。感染症は日本には来ないという想定だったので、ベッドが全然ありませんでした。でも蓋を開けて見たらすごい感染症のベッドが必要だったし、在宅でもベッドの必要がありました。現在もベッドを十分確保していると言ったにも関わらず、もう待機患者であふれています。

最後に、自分で良い医療を受けたかったら、自分で良い選択をしたかったら、自分で生き延びたかったら、自分で選ばなければいけないし、その準備をしなければいけない時期に今は来ているという事がわかりました。

今日はありがとうございました。

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