透析における震災対策⑤震災時における透析患者さんの病院への受け入れについて

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透析における震災対策⑤震災時における透析患者さんの病院への受け入れについて

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透析における震災対策⑤震災時における透析患者さんの病院への受け入れについて

[おうちで透析 インタビュー 透析における震災対策⑤]

  • 柴垣医院 臨床工学部 統括部長 市川 匠 様

聞き手:

  • 医療コンサルタント 大西 大輔(MICTコンサルティング株式会社 代表取締役)

大西: 東日本大震災からもう11年経ちますが、だんだん忘れていきますよね。忘れてしまう所を再度思い出してもらう意味で、経産省、警察庁など、いろいろなところで話し合いが始まっているということなのだと思います。

コロナの時のイメージが分かりやすいかと思いますが、患者さんの立場からするとコロナの時も最初はベッドの受け入れができていたのに、雲行きが怪しくなって一気に自宅療養に変わりました。そのイメージがあると医療機関あるいは行政を信用することが難しい可能性もありますよね。

市川さん: 先ほどの共助の部分の「透析を支援するためのネットワーク」というのは、基本的には大規模な災害の時にはそのシステムを優先すると決まっています。そのため、例えば近くの病院に駆け込むといった場合に、基本的には全ての医療および透析施設がネットワークの調整を最優先に動くことが定められています。

例えば、空いてるベットがあるからすぐに透析をしてあげられるかというと難しく、そこは調整用のベッドになっているという可能性も高いわけですね。そうすると、多くの患者様が、特に比較的楽観的な患者様は、「そんなのどうにかなるだろう」とおっしゃる方もいらっしゃるのですが、基本的にはどうにもなりません。

それから、大きな病院に通っているから「いざとなったら大学病院に行くよ」とか「地域の基幹病院に行くよ」とおっしゃる方もいるのですが、これも医療従事者側の都合ですが、大きな病院ほど、例えば外傷者であるとか、クラッシュ症候群のような緊急性の高い患者様を優先することになるため、透析患者のプライオリティは実はそれほど高くありません。

東日本大震災を契機に、いわゆる「要支援患者」、「要配慮者」という考え方が生まれました。要は社会的な弱者を(災害時など)そういった場合には行政がサポートとします、という意味です。

その対象者には、内部障害者や他にも色々な支援する対象の方たちがいます。透析患者はやっと入ったのですが、非常に優先度の順位が低いです。

というのは、平時十分な透析を受けていて自己管理ができていれば、透析を数日やらなくても重大な障害を起こす可能性は極めて低い、と認識されているためです。

今まさに治療をしなければいけない人と、何日か様子を見ても大丈夫な人であれば、おのずと優先度の高い人を診る、という話になるのです。大きな病院はそういった方たちを診ることになり、むしろ大きな病院で透析だけをやればいい人は、町のクリニックで引き受けてほしいと医療従事者側は想定しています。

近くの病院になんとか駆け込めばどうにかなる、と考えていらっしゃる方が一定数いらっしゃるのですが、この考え方は非常に危険で、にっちもさっちもいかなくなる可能性は非常に高いとお伝えしています。けれども、なかなかこの危機感を持っていただける方は少ないのが現状です。

大西: そうですね。実際日頃からの体のコントロール、食事も水分量もそういうところが上手くいけば、数日間であれば透析なしでも生き延びられますね。でも、それが普段からたくさん除水しなければいけないような方であれば、当然すぐに悪化しますよね。

では、今すぐ患者自身として何を準備しておけば良いのでしょうか。透析カードなどの備えについては聞いたのですが、体のコントロールについてはどんなことに気を付ければ良いのでしょうか。

市川さん: 基本的には普段の透析と同じで、体重のコントロール、食事量のコントロールは非常に重要になります。

普段はどちらかと言うと「摂り過ぎないようにしてください」と話していますが、十分な食事が供給されないケースもありますので、低栄養状態になることもあります。人間の体というのはエネルギーが非常に不足した状態になると、色々な体の中の細胞を壊してそれをエネルギーとする働きが起きてしまいます。そういったことによって、より腎不全が悪化してしまうというリスクをはらんでいます。

また、飲み水の確保などができていないケースも多いです。過去の透析患者で被災された方たちのケースで言うと、通常は「溢水」と言って、体に水分が多く溜まった状態を我々はリスクとして想定しているのですが、意外と逆に脱水を起こしていて体の中の血液が濃縮している状態になっているという患者様も多く見られる、ということが経験的に分かってきました。

そのようなわけで、食事制限の内容に関しては、平常時の状態と比べて、更に一段階厳しく管理するという必要性があるかと思います。

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